大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和52年(オ)360号 判決

選定当事者

上告人

柘植彦次郎

選定者

柘植彦次郎

外七名

右訴訟代理人

鍛冶千鶴子

鍛冶良堅

亡田中吉太郎相続財産管理人

被上告人

北山六郎

右補助参加人

財団法人日本青年協会

右代表者理事

野口保固

右訴訟代理人

内藤頼博

古沢博

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鍛冶千鶴子、同鍛冶良堅の上告理由第一点について

民法九五八条の規定による公告期間内に相続人であることの申出をしなかつた者については、たとえ右期間内に相続人であることの申出をした他の者の相続権の存否が訴訟で争われていたとしても、該訴訟の確定に至るまで右期間が延長されるものではないと解するのが相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

民法九五八条の規定による公告期間内に組続人であることの申出をしなかつた者は、同法九五八条の二の規定により、右期間の徒過とともに、相続財産法人及びその後に財産が帰属する国庫に対する関係で失権するのであつて、特別縁故者に対する分与後の残余財産が存する場合においても、右残余財産について相続権を主張することは許されないものと解するのが相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、右違法を前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一)

上告代理人鍛冶千鶴子、同鍛冶良堅の上告理由

第一点 原判決は、民法九五八条の二および九五八条の三の解釈を誤つた違法があるから、破棄されるべきである。

最終公告期限内に相続人の申出を行なつた者につき相続権の存否が訴訟で争われている場合は、該訴訟の確定時から三ケ月後まで特別縁故者の請求期間が延長されることについては、原審もこれを認めている。ところで、右特別縁故者の請求につき民法九五八条の三第二項は、「前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内に、これをしなければならない。」と規定している。そうであるとすれば、前記訴訟が確定するまでは、九五八条の相続人捜索の公告期間は延長されるものと解さなければならない。

上告人が相続人の申出を行なつたのは、前記訴訟の係属中であり、九五八条の三第二項にいう「期間の満了」前であるから、適法なものというべきである。しかるに、原審は、特別縁故者の請求期間の延長のみを認め、相続人の申出期間の延長は認めえないとするが、これは九五八条の三第二項の解釈を誤つたものといわなければならない。

ところで、原審は、九五八条の二にいう「相続人である権利を主張する者」を「正当な相続人」というように狭く解しようとしているが、同順位の相続人の一人もしくは後順位の相続人が申出を行なつた場合にも、相続人は権利を失なわないことはいうまでもないが、誰が正当な相続人であるかは、調査の上はじめて確定しうべきものである以上、「正当な相続人」と限定することは適切ではない。また、原審は、正当な相続人の申出があれば、ただちに相続財産法人は消滅するかの如く解しているが、誰が正当な相続人であるかを調査し確定した後、管理の計算を明らかにしてこの者に財産を引渡すまでは、相続財産法人は存続するものというべきである。

これを要するに、期間内に相続人の申出を行なつた者があり、かつてその者につき相続権の存否が訴訟で争われている場合には、少くともその確定まで相続人の申出を認め、その結果を見きわめた上で、相続財産法人が適切な財産帰属の措置を行なうべきであつて、原審の解釈は、進行しつつある事態の具体的処理に対して適切ではない。

以上の理由により、期間内に相続人の申出を行なつたものが相続権の存否を訴訟で争つている場合には、その確定まで相続人の申出を認めるべきで、この点、原審判決は、民法九五八条の二および九五八条の三の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。

第二点 原判決は、民法九五八条の二および九五九条の解釈を誤つた違法があり、ひいて憲法二九条に違反するから、破棄されるべきである。

原審判決は、公告期間内に申し出なかつた相続人は、相続財産法人に対して絶対的に権利を喪失するとして、特別縁故者に対する分与後の残余財産に対する分配請求権まで否定するが、これは、制度の目的を超えて私権を奪うものであつて、憲法二九条に反しとうてい許されないところである。民法九五八条の二が、原審のいうように、「相続財産を凍結して清算および分与手続の円滑化を図ろうとした」ものであるにしても、その目的からすれば、分与が完了するまで相続権の行使を制限し、同時に、分与が行なわれた範囲内で相続権を失なわせれば足りるわけであつて、残余財産の分配を認めたからといつて、清算や分与の支障になるということはありえない。原審が、分与や清算に対して影響を生ずるとして述べるところは、杞憂に過ぎないものであつて、なんらの根拠も有しない。ことに、現在の不完全な公告制度を考えるとき、国庫帰属前に限り、残余財産の分配請求を認めることは、憲法二九条の趣旨において絶対に必要であるといわなければならない。

これを要するに、相続財産の清算および分与に対して何ら支障とならない残余財産の分配請求権を奪うことは憲法上も許されないところであり、この点において、昭和三七年の改正の前と後とで取扱いを異にすべき理由は存在しない。この故に原判決もふれている東京家庭裁判所昭和三六年第二回身分法研究会多数説は、今日でも正当性を有するものというべく、国庫引渡前の残余財産の分配請求は認められなければならず、この点で原判決は、形式的画一的処理のみを目的として、不当に私権を奪う法解釈をあえて行なつたものというべきである。

なお、原審は、明文をもつて準用を定めない限り、民法八〇条をたやすく類推適用することはできないとするが、相続財産法人も法人である以上、その性質に反しない限り法人の章を類推適用しうべきは当然であつて、九五七条二項が七九条二項、三項を準用したのは、単なる規定上の経済に過ぎないというべく、これを根拠に類推適用を否定することはできない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例